均整の取れたスタイルの中に彫刻のような美しい筋肉が発達している日本卓球界のエース、石川佳純選手。リオ五輪の初戦敗退以降、並々ならぬ努力を積み重ね、見事ワールドツアー4強入りを果たしました。その努力のひとつが「筋力トレーニング」です。
卓球が強くなり、勝ち上がりたい方は必見!石川選手が強くなるために取り入れた筋力トレーニングや、それらが卓球に及ぼす効果を徹底検証します。
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ワールドツアー4強入りには理由があった!
2018年の卓球ワールドツアー韓国オープンで世界第3位まで上り詰めた石川佳純選手。実は2012年のロンドンオリンピックで第4位という好成績を残して以降、持ち味である攻めの卓球が鳴りを潜め、思うような戦果を挙げられない時期が続きました。
その後リオオリンピックでは初戦敗退を喫し、ボールの素材変更によりプレイスタイルの再考が迫られる中、「結果に後悔しないための練習をする」という揺らがない思いが生まれたのです。石川選手が中軸に据えたのが、筋力トレーニングでした。
石川選手を4強たらしめた要因は「トレーニング」にあり?
現在のスポーツ界では体幹トレーニングが主流となっており、マシーンや荷重を利用したウエイトトレーニングは「体を重くする」として敬遠される傾向にありますが、石川選手は実直にもパワーを求めてウエイトトレーニングをも取り入れたのです。
卓球の石川佳純選手がワールドツアーの韓国オープンから帰国しました。伊藤美誠選手や中国の孫穎莎選手を下し、日本勢最高の4強。「1か月間、意識してやってきたトレーニングやサーブレシーブが、すごくいい形でちょっとずつ成果が出たかなと感じた」と手応え十分の様子でした。 pic.twitter.com/h3Pj5uYxxn
— スポーツ報知 五輪取材班 (@hochi_sports) 2018年7月22日
その結果体重は1.5kg増加し、韓国オープンで4強入り。インタビューで石川選手自ら「勝因はトレーニング」と語るほどの効果をもたらしました。
卓球世界4強の美しい筋肉を作ったトレーニングとは
石川佳純選手を強く、美しく進化させたトレーニングとは、一体どんなものだったのでしょうか。インタビューやメディア映像から、石川佳純選手のトレーニング方法を徹底調査しました!
石川選手を根底から支えるバーベルスクワット
体重50kgにも満たない石川選手がバーベルスクワットで持ち上げる重量はなんと40kg。自身の体重とさほど変わらないバーベルを担ぐだけならともかく、担いだ状態でスクワットが可能なのです。
石川佳純が肉体改造について明かす 40キロのバーベルも耐える。卓球の世界選手権に出場する石川佳純は強靭な下半身に支えられている。2013年10月から肉体改造に取り組み、特に足腰を重点的に強化してきた。バーベルを使ったスクワットでは40kgの負荷にも耐えられるようになっただって!
— 気になるにゅーすBOT (@twtorendo) 2015年4月26日
バーベルスクワットはバーの位置によって、鍛えられる筋肉が変わります。今回は石川選手の強靭な下半身を作ったであろうハイバーバーベルスクワットによる大腿四頭筋トレーニングの方法をご紹介します。
ハイバーバーベルスクワットの基本動作
- バーベルの真ん中に立つ
- 腕を横に広げたときの肘の幅程度のスタンスでバーを掴む
- 掴んだままバーをくぐり、背中の上方にバーが来るように調節し、腕の幅など無理のない位置に整える
- バーベルを担ぎ、スクワットをするポジションに移動する
- 足幅は広げすぎず、つま先は前より少し外側を向くようにする
- 息を吸い込み腹圧をかけたまま膝を曲げて沈み込む
- 太腿を意識しつつ徐々に息を吐きながら立ち上がる
【ポイント】
太腿の筋肉を意識することがトレーニング効果を上げるためにも、また怪我防止のためにも重要です。
息を吸い込んだ状態で腹部に力を溜め込み、太腿で荷重を支えながら沈み込みましょう。
負荷は逃さず受け止めることで卓球向けの太腿を作る
バーベルが重くなるにつれ、無意識に負荷を逃してしまいがちです。次の3点を必ず念頭に置き、バーベルスクワットに臨むといいでしょう。
バーベルスクワットの効果を上げるためのポイント
・持ち上げたときに膝は軽く曲げたまま
・アップ、ダウンともにゆっくりとしたスピードで
・アップ、ダウンは同じ経路を通るイメージで
3つのポイントを無視したトレーニングでは効果が上がりません。これには理由があります。
持ち上げたときに膝は軽く曲げたまま
膝を真っ直ぐ伸ばしてしまうと、筋肉ではなく「骨」でバーベルの荷重を支えることができてしまいます。この瞬間、大腿四頭筋への負荷が消えてしまうのです。
バーベルスクワットはある程度連続してアップダウンを繰り返すことでトレーニング効果を発揮するため、バーベルスクワットを行っている間は常に膝が軽く曲がっている状態を保ちます。
アップ、ダウンともにゆっくりとしたスピードで
バーベルの重さを利用すれば、太腿の力を抜いた瞬間に簡単に沈み込むことができてしまいます。荷重が軽いうちは、沈み込んだ勢いをバネにすれば素早く立ち上がることもできるかもしれません。しかし、それでは大腿四頭筋への負荷はかかりません。
バーベルの重さを大腿四頭筋で受け止めながら、ゆっくりと沈み込むのはとても辛いでしょう。しかしそれが効いている証拠。立ち上がる動きも同様です。大腿四頭筋を鍛えるのに「勢い」は禁物です。
アップ、ダウンは同じ経路を通るイメージで
立ち上がる際、腰やお尻を先に持ち上げると比較的ラクに立ち上がることができます。お尻を持ち上げれば膝が自然に伸び、バーベルは体の前へ出ることになり、これでは大腿四頭筋にとって何の意味もありません。
沈み込む際の動きをなぞるようにして立ち上がる。これを意識すると大腿四頭筋に常に負荷をかけることができ、トレーニング効果が損なわれません。
ハイバーバーベルで卓球が強くなる理由
スクワットで鍛えられる大腿四頭筋。実は卓球において欠かすことのできない筋肉です。卓球の選手の多くは太腿の筋肉が発達しており、世界レベルで太腿が細い選手はまず存在しませんし、石川選手も例外ではありません。太腿の筋肉の中で最も大きな大腿四頭筋は卓球選手にとって要となる筋肉だといえます。
スクワットで鍛えられた大腿四頭筋は、卓球でのフットワーク向上に寄与します。ボールの動きに反応して素早く体を動かすためには、常に膝を軽く曲げた状態でいる必要があります。
このとき常に負荷がかかっているのが大腿四頭筋です。そしてそこから一歩踏み出す、あるいは踏みこらえるという動きにも関与しています。
つまり大腿四頭筋は、ボールの軌道やスピードに合わせて臨機応変に足や上半身を動かすという卓球の基本的なモーションに絶対に欠かせない筋肉なのです。バーベルスクワットを行った石川選手が強さを増した理由のひとつが、ここにありました。
【関連記事】大腿四頭筋の役割とは?筋肉の働きや筋トレ方法!
石川選手の体幹を作るハンズアップスクワット
石川選手がトレーニングのひとつとして取り入れているのがハンズアップスクワットです。バーベルのような物質的負荷をかけず自重を使った体幹トレーニングの一種で、場所を選ばないという利点があります。
試合前のウォームアップとして石川選手は他選手とともにハンズアップスクワットを行っていました。ハンズアップスクワットの基本と、石川選手が実際に取り入れていた動きをご紹介します。
ハンズアップスクワットの基本動作
- 両足は前後に広めのスタンスで開く。
- 両手の指を組み合わせ、手のひらを前に押し出すようにして腕を伸ばす(動画ではダンベルを持っています)。
- 腕を伸ばしたまま徐々に持ち上げ、手のひらを天井に押し出すようにして背筋を伸ばす。
- 両膝を少しずつ曲げ、後ろの膝が地面につかないギリギリまで沈み込む。
- ゆっくり3.の姿勢に戻る。
- 足を前後入れ替えて同様のトレーニングを行う。1セット10回を無理のないペースで繰り返す。
【ポイント】
伸びをするようなイメージで両手のひらを突き出します。
上半身は地面に対して垂直の状態を保ったままでスクワットを行いましょう。
石川選手が行っていたハンズアップスクワットは少し違う
動画ではバーベルで負荷をかけていましたが、スタンダードなハンズアップスクワットは両手を組んで行うのが一般的です。手のひらを外側に向けて突き出すと肩が内側に入り込み、背中は丸くなります。背中をあえて真っ直ぐに保つことで背筋を鍛え、体幹力を得るのです。
しかし石川選手のハンズアップスクワットでは、腕は胸の高さに保ったまま、手のひらは内側に向けていました。実は石川選手、一度は手のひらを外に向けましたが、トレーナーの動き(手本)を見て手のひらを内側に返したのです。この間、足は前後に開き、膝を曲げた状態にあったようです。
トレーナーの動きを真似る、という点が大きなポイントだと考えられます。定型トレーニングであれば自分の中に意識を集中して行うことができますが、誰かの動きを真似る場合は自分自身から注意を逸らし、他者の動きを注視しなければなりません。そしてその間、膝を曲げた状態で姿勢を保つ必要があるのです。
相手に注意を向けつつも自身のバランスを崩さないこと。これは、素早いラリーの中で相手の僅かな動きの変化を見逃さず、動揺せず、体を意のままに動かすという卓球の動きをレベルアップさせるために鍛えるべき能力だといえるでしょう。
【関連記事】正しいスクワットのやり方について
俊敏性の源はドットドリル
卓球に必須の能力のひとつが俊敏性です。石川選手はもともと強い体幹と俊敏性を兼ね備えていましたが、更なる瞬発力を手に入れるために新しいアジリティ(俊敏性)トレーニングを取り入れました。それが「ドットドリル」です。