近代五種とは、1人で射撃・フェンシング・水泳・馬術・ランニングの5つの競技をこなす複合競技。
オリンピックにおいて個人戦のみ競技として認定されています。
近代五種は日本では競技人口がまだまだ少なく馴染みのない競技です。
ですが、複雑かつ過酷な内容は目を見張るものがあります。
今回は近代五種とはどんな競技なのか、その魅力に迫り、注目選手にも焦点を当てていきます。
近代五種が生まれた歴史
近代五種は実はとても奥が深い競技。
というのも、その起源は19世紀にもさかのぼるのです。
なぜこの5種類の競技がセットで行われるようになったのか、その歴史に迫りましょう。
近代オリンピック創立者が提案
近代五種は近代オリンピックの創立者であるクーベルタン男爵が提案したものです。
ナポレオンの活躍した時代の戦士になぞらえて、競技内容が決められました。
敵陣へと銃を撃ち、馬で乗り込んで剣で戦い、川を泳ぎ抜け、丘を走り抜ける…。
そうして戦いの結果を味方へ報告に行く戦士の姿を、競技に落とし込んだのです。その結果、射撃・馬術・フェンシング・水泳・ランニングが競技となりました。
「かつて戦いの渦中で戦士が味わった経験を再現している」と思えば、この過酷な競技内容も頷けます。
なぜ「近代」なのか?
近代五種の「近代」という言葉。
先ほど「近代オリンピック」創設者の提案であると説明しましたが、ここでも「近代」という言葉が出てきましたね。
まず、オリンピックには古来行われてきた「古代オリンピック」があります。
そして、現在行われているのは「近代オリンピック」。
「古代オリンピック」は古代ギリシアにおいて行われていた競技会です。
当時は神事や宗教行事としての要素がメインで、現在の「近代オリンピック」ほどスポーツ色は強くありませんでした。
また、「古代オリンピック」にも古代五種という種目があります。
内容としては幅跳び 、短距離競走、円盤投げ、やり投げ、レスリングの5つ。
近代五種は古代五種の近代バージョンとして新たに考えられた複合競技なのです。
5つの競技内容
近代五種に含まれる射撃・フェンシング・水泳・馬術・ランニングの5種類の競技。
この中には、聞きなれない言葉もあるのではないでしょうか?
具体的にどんな競技が繰り広げられるのか、実際に行われる順番でまとめてみました。
フェンシング
フェンシングでは、相手の身体に「エペ(=突き)」を繰り出します。
全身が突くことのできる範囲となり、1分間以内に「エペ」を1本でも決めた方が勝利となる1本勝負。
世界トップクラスのフェンシングは目で追うのが困難なほどの高速度で繰り出され、短時間に凄まじい集中力を使う競技です。
実施にあたっては参加者全員がそれぞれ対戦をする総当たり戦となります。
そして、最終的に算出された勝率をもとに得点が決定。
勝率70%で満点の250点となり、出場人数などにより減点内容は変動します。
水泳
水泳は誰しも知るスポーツですね。
近代五種では200mを自由形で泳ぎ切る速さを競います。
水泳はかなりの体力を消費する全身運動であり、ここではスピードとスタミナのバランスを取る持久戦となるでしょう。
ちなみに、2分30秒で満点の250点となり、0.5秒ごとに1点ずつ点数が減点されていきます。
馬術
近代五種で実施されるのは、馬術競技の中でも障害飛越競技というものです。
この競技ではコースの途中に障害物が設置されており、乗馬しながら飛び越えていく必要があります。
300点が満点となり減点方式で計算。
どのような場合に減点されるのか、その基準を確認してみましょう。
- 飛び越える際に足などが引っかかり障害物が落ちる(=障害物の落下)
- 馬が障害物を避けたり抵抗する(=不従順・反抗)
- 決められたタイムの超過
さらに以下の3点は、失格となってしまう場合です。
- 馬が継続して45秒以上反抗
- 落馬や転倒
- 決められた経路順を違反
スムーズにコースをクリアしていく正確性が重要視されることがうかがえますね。
そして何より、オリンピック近代五種における馬術の難しさは、初めて対面する馬に乗馬するという点です。
慣れ親しんだ馬ではありません。
そのため、冷静に根気強く馬へアプローチする必要があり、難易度が非常に高い競技といえます。
ただでさえ難しい競技内容なのに、過酷な条件下でそれを遂行する必要があるのですね。
射的とランニング
射的とランニングは2009北京オリンピックからミックスされ、「レーザーラン」という競技になりました。
コンバインドという名称でも呼ばれています。
レーザーランは射的とランニングを交互に4回行う競技。
射的は、10m離れた場所にある6cm程の的にレーザーピストルを5回命中させます。
これには50秒という制限時間が設けられており、命中するまでひたすら撃ち続けるのです。
そして、射的の間に行うランニングはなんと800mもの距離があります。
正確性を求められる射的を成功させるためには、疲労状態でも適確に集中力を切り替えることが重要。
まさに「戦場における戦士の様」を表現した競技といえますね。
また、レーザーランはそれまでに行った3種の競技の結果で、スタートのタイミングが変わります。
1点につき1秒で換算し、時間差をつけてスタートしていくのです。
最後にゴールした到着順が、近代五種全体における最終順位となります。
「キングオブスポーツ」の異名
ここまで競技の内容を確認してきました。
驚くべき点は、これらがわずか1日の間に実施されるということです。
過酷な状況下で限界点を競う
フェンシングで集中力を使い、水泳で体力を大きく消耗する…。
この時点で多くの選手は万全のパフォーマンスができる状態ではなくなるでしょう。
そんな状況下で次は、初めて対面する馬による乗馬で、細かなアプローチが求められるのです。
そして最後には、勝利に向けてひたすら駆け抜けつつ、何とか集中力を保ちながら射的を行います。
種目ごとに様々な必要な能力が切り替わり、身体能力だけでなく体力や精神力、自己コントロール能力が求められる…。
こうした過酷な競技内容から、近代五種は「キングオブスポーツ(=スポーツの王)」という異名を持っています。
過酷なスポーツだからこそ、完走した時の達成感は底知れないですね。